

【Kakara Woolworks】の手で作ることを大切にする生き方
2025年9月17日公開
「Kakara Woolworks (カカラ ウールワークス) 」 は、直輸入の紡ぎ車や織機、染料をはじめ、手紡ぎ手織りのための道具・材料が揃うウールクラフトショップです。2025年5月、開業から18年を迎えました。1台1台心を込めて作られた紡ぎ車は、多くのスピナーにとっても馴染み深い存在ではないでしょうか。代表の青島さんは、2013年~2022年までの10年間、東京スピニングパーティーの実行委員長として企画開催に奔走し、現在は岡山県赤磐市を拠点に活動中。Kakara Woolworksを運営しながら、ご主人とともにパン屋 Boulangerie Pinaud (ブランジェリーピノ) も営んでいます。
さまざまな活動に精力的に取り組んでいる青島さんに、これまでの歩みや大切にしている想いについて伺いました。
愛情のこもった紡ぎ道具を広めるために
ーKakara Woolworks立ち上げの経緯を教えてください。
大学時代に羊毛に出会い、その魅力にすっかり虜になりました。卒業後、羊や羊毛に関わる仕事がしたいと思い、ニュージーランドへ。現地を巡る中で、さまざまな道具屋さんや材料屋さんに出会い、中でも特に印象的だったのがマジャクラフト社でした。彼らの道具は本当に素晴らしく、ぜひ日本のスピナーにも使ってもらいたいと思ったんです。帰国後、その思いを形にするために、Kakara Woolworksを立ち上げました。
ーマジャクラフト社にはどんな魅力があったのでしょうか?
家族経営の小さな会社ですが、紡ぎに対する愛情がとても深いんです。より良い道具を作るために、皆が試行錯誤を重ね、すべて手作業(一部機械使用)で作られています。オランダのルエ社も同様に「紡ぎや織りが好きだ」という気持ちが溢れた素敵な会社です。少年のように目を輝かせて次々とアイデアを生み出していく社長を中心に、家族全員が楽しみながら道具作りに関わっている。そんな彼らと過ごす時間は、幸せに溢れています。大手メーカーの織り機や紡ぎ車もありますが、機械で量産されたものとは違い、人の手で丁寧に作られた道具には温かみがあります。世界で最も使いやすく、見た目も美しい、心からおすすめできる道具たちです。

ー 愛情のこもった道具なんですね。実際に紡ぐ時の違いも感じられますか?
全然違います。まさに「夢見心地で紡げる車」で、道具の違いで糸紡ぎの楽しさが大きく変わることを実感しました。私自身、初めて羊毛を紡いだ時は、他社の紡毛機で2週間経っても思うように紡げず、冬のニュージーランドで大汗をかきながら悪戦苦闘しました。でもマジャクラフト社の紡ぎ車を試したら、たった2時間で気持ちよく糸が紡げたんです。糸紡ぎはコツを掴むまでは難しく、「向いていないかも」と諦めてしまう人も多いですが、良い道具を使えばもっと簡単に楽しく、紡ぐことの素晴らしさに集中して続けられます。そんな人を増やしたくて、Kakara Woolworksを続けてきました。
ー 東京スピニングパーティーの運営を10年されていましたが、当時を振り返ってみるとどうでしたか?
2013年に引き継いだのですが、ちょうど子育てと重なり、正直、当時の記憶がほとんどないくらい大変でしたね。一人目を産んだ直後に引き継いで、そのまま二人目も産んで…。手伝ってくれた方々のお陰で、なんとか乗り切ることができました。
開催当日に事務局をしていると、アルバイトスタッフだとよく間違われていました(笑)。今思えば、すべてが勉強で、修行で、良い経験となりました。


ー大変な思いをしながらも、スピニングパーティーを通じてできたご縁もあったそうですね。
たくさんの有名な講師の方々に来ていただくことができ、そのご縁が今も続いていています。2025年は片山佳代子先生や坂田ツル子先生、野口光先生もお迎えしました。皆さん、世界で活躍されている素晴らしい先生です。
田舎暮らしで感じた「全てがある生活」
ー現在の拠点赤磐市に移り、新しい取り組みもはじめられたと伺いました。
2021年、岡山県のウールを活用する「岡山ウールプロジェクト」をスタートしました。市内にある「おかやまフォレストパーク ドイツの森」から回収した羊毛を糸に紡ぎ、布を作り、県内の縫製工場で仕立ててコートを完成させました。正真正銘、岡山ウール100%のコートです。地産地消といえば食べ物が思い浮かぶかもしれませんが、衣類も同じように自給自足が可能なんです。現状日本は輸入に頼っていますが、昔は自分たちで作ることが当たり前でした。かつて行われていたように「必要なものは自分たちで作る」という意識を取り戻すきっかけになればと思っています。都会に人口が集中し、田舎には「何もない」と思う人もいるかもしれませんが、私は田舎こそが宝の山だと思っています。ここにはすべてが揃っていて、食べ物も衣類も自分たちで作ることができます。

ーフランスパンのお店Boulangerie Pinaud (ブランジェリーピノ)も運営されていますが、紡ぎとの共通点はありますか?
ブランジェリーピノのパンにはオーガニックの小麦粉を使用し、できるだけ無添加の原材料を選ぶことにこだわっています。「必要なものはゼロから自分たちで作りたい」という想いから、小麦の栽培も少量ながら自分たちで行っています。そのため、お店に来るお客様の多くも、オーガニックや無農薬に関心を持つ方々です。そうした方々の中には、綿を育てて自分で糸を紡ぐスピニングに興味を持つ人も多く、パンをきっかけにウールの世界に入る方もいらっしゃいます。全く異なる分野のようでいて、思わぬところでつながりが生まれるのは面白いですね。
コロナ禍を経て見えたこと
ーコロナウイルスの世界的な蔓延を経て、紡ぐことに関心を持つ方が増えたと聞きますが、その点についてどのように思いますか?
コロナ禍は大変な出来事でしたが、人が原点に立ち返るきっかけになったとも感じています。マスクをはじめとするさまざまな物が不足しましたが、スピニングを行う人たちは、自分で糸を紡いで布を作り、マスクを縫っていました。スピナーでなくても、多くの人が手作りに関心を持つようになり、糸紡ぎ車やミシン、調理器具の売れ行きが伸びたとも聞きます。物がなくなったとき、人は自ら作る力を持っているのだと改めて実感しました。自らの手を動かし、糸を紡ぎ、その糸で布を織るということは、人間が生きていくうえで不可欠な営みです。自分で作ることができれば、何も怖くありません。大量生産に頼るのではなく、自分たちで紡いでいける人こそが増えればと思います。

ーそんな思いで本も出版されたそうですね。
はい。2020年に著書『糸紡ぎのテクニックとデザイン:紡ぎ方の基礎から応用、アートヤーン、道具や羊毛素材、準備まで』(誠文堂新光社)を出版しました。日本初のアートヤーン本です。繊維の選び方や道具の使い方、紡ぎ方まで、一つ一つ図も入れて説明している本です。すぐに糸紡ぎを始められるように案内しているので、スピニングのある暮らしに触れるきっかけとなれば嬉しいです。


手仕事の“オトモ”
天然樟脳の香り(カカラウールワークスでも販売中)
「天然樟脳(てんねんしょうのう)」とは、クスノキから採取される天然の芳香性結晶で、防虫・防腐・消臭などの効果がある自然由来の物質です。古くから衣類の防虫剤などに使われてきました。
宮崎県のクスノキだけで作られた樟脳やハーバルウォーターを自店でも販売しているのですが、クスノキ特有の清涼感あふれる香りがとても好きで。疲れてしんどい時に、この香りが気分を落ち着かせてくれます。
(◇取材・文:辺見美咲 ◇デザイン・編集:スピパジャーナル編集部)
〈青島由佳さん プロフィール〉

武蔵野美術大学短期大学部 工芸デザイン専攻テキスタイルコース卒業後、ニュージーランド南島に渡り、現地で羊や羊毛に関わる実践的な経験を積む。
帰国後、ウールクラフト店「Kakara Woolworks(カカラ ウールワークス)」を開業。手紡ぎ文化の普及と継承に取り組む。
全国各地でアートヤーンのワークショップや「紡ぎカフェ」を開催し、手仕事の楽しさを伝える活動を展開。2013年から2022年にかけては、日本唯一のファイバーフェスティバル「新・東京スピニングパーティー」を年1回企画・運営した。
現在は、手紡ぎ・手織り・染織をはじめとする国内外の繊維技術や文化の継承・発展を目的に、教育・普及活動を中心とした幅広い取り組みを行っている。
著書に『糸紡ぎのテクニックとデザイン:紡ぎ方の基礎から応用、アートヤーン、道具や羊毛素材、準備まで』(誠文堂新光社)。
Kakara Woolworks
・HP
https://kakara-woolworks.com/
・インスタグラム
@kakarawool


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