【一般社団法人日本羊毛フェルト協会】佐々木伸子先生
異業種から手仕事の世界へ。自身を見つめた先にあった新たな答え
2024年10月26日公開
一般社団法人 日本羊毛フェルト協会は、羊毛フェルトを普及させるための団体として2011年に発足しました。東京スピニングパーティー2024では『ひつじの学校』として出店し、人気を博しました。羊毛フェルトを作る楽しさを広めるだけでなく、養成講座を通して数多くの作家を輩出している同団体。今回は代表の佐々木伸子さんにお話を伺いました。
手芸店でのハンドメイドフェルトとの出会い。人生を変えた手仕事の世界
ー佐々木先生の、現在の活動内容について教えてください
羊毛フェルトの普及活動や羊毛フェルト作家の認定講座の開催、作家さんたちの作品の販売などが主な活動です。最近は特に「ニードーリー」という羊毛フェルトキットの販売に力を入れています。
羊毛フェルトにはお湯と石鹸で固めていく「ハンドメイドフェルト」と針で刺して固めていく「ニードルフェルト」の2つの技法があるのですが、ニードルフェルトは時間と根気が必要となります。そのため思い通りの作品を作るのが難しく、「こんなものか」と羊毛フェルトから離れてしまう方も多いようです。その点、「ニードーリー」は、あらかじめ形ができあがっているマスコットに羊毛を刺すだけなので、初心者の方でも簡単にかわいいマスコットを作ることができます。所要時間も1時間半あれば十分です。ニードーリーを使って、少しでも多くの方々に成功体験を積んでいただきたいと思っています。私も、様々な場所でワークショップを開催する機会がありますが、初めての方にも取り組みやすいので、ニードルフェルトの入口として「ニードーリー」をよく活用しています。
ーハンドメイドフェルトをはじめたきっかけは何ですか?
私は以前、夏に水泳、冬にスキーを教える仕事をしていました。しかしある時、体力の限界を迎えその仕事を辞めることにしたんです。その後何をしようかと考えていた時、ふと立ち寄った手芸店で、ハンドメイドフェルトのビデオが流れているのを見かけました。お湯と石鹸で羊毛を固めて作るフェルト作品のビデオだったのですが、直感的に「これだ」と思い、その場でそのビデオを2時間も見入ってしまいました。洋裁と違って縫う必要もないですし、なんとなく「自分にもできそう」と思ったんです。その場で本と羊毛を購入し、独学で始めました。いざやってみるとすごく面白くて、朝から夜中までめり込んで取り組みました。羊毛には保温性や発水性、吸湿・放湿性など、いろいろな特性があります。それを調べれば調べるほど羊毛のすごさに感心していました。最初は仕事にするつもりは全くありませんでしたが、やり始めるとつい追求してしまう性格で、気がつけば極めていましたね。
知人から舞い込んだチャンス、そして震災—。目の前の出来事に真摯に向き合い見えてくる目標たち
ー作品づくりをお仕事につなげていったきっかけは?
作品をたくさん作っているうちに、知人から「教えて欲しい」と言われることが多くなりました。そこで講座を開いたのが最初のきっかけです。また、これまで9冊の本を出版してきましたが、きっかけは犬の散歩でした。犬の散歩仲間の中に本のデザイナーさんがいて、何気ない会話から出版に至りました。
ー日本羊毛フェルト協会設立のきっかけは何ですか?
いずれは、団体を設立しようと考えていました。羊毛フェルトを広めるためにも必要だと考えていましたし、一人で活動していたので仲間も欲しかったんです。しかしいつも「来年でいいかな」と、先延ばしにしてしまっていました。
そんな中、2011年3月11日の東日本大震災が起こり、「明日が必ずあるわけではない」と強く感じました。すぐさま手続きに取り掛かり、翌月の4月11日に設立しました。
他人軸から、自分軸へ。闘病が気づかせてくれた「新たな答え」
ー活動する中で、印象に残っているエピソードを教えてください
2020年に大きな病気を経験し、それを機に自分と向き合うようになりました。それまでは、他人にどう思われるのかを気にしてばかりで、何か言われると落ち込んだり、イライラしたりと、心がすごく乱されていたんです。寛解した現在では「自分がどうしたいか」を軸に、行動できるようになりました。
病気をする前は、作家としての活動や作家養成の場面でも、「こうじゃなきゃいけない」と強く思い込み、講座の生徒さんにも「ここまでのラインはクリアしないとダメだよ」などと、かなり厳しく言っていました。でも、病気をきっかけに、「クリアすべきラインも人それぞれ違うんだ」ということに気づけたんです。
作家養成講座の中で生徒さんに「どのレベルまで行けば作家と名乗れそうですか?」と尋ねると、理想がすごく高い方もいれば、ハードルを高く設定しすぎない方もいて、はじめは驚きましたが、現在は個々の感覚の違いを受け入れられるようになりました。
生徒さんの中にも、様々な個性や才能を持った方がいます。私が「凄い」と思ってそれを伝えても、「私なんかまだまだです」と、自分の才能の凄さに気づいてない方も多いんです。自分では「大したことない」と思っても、活かし方を工夫すればすごいものが出来上がるのではないかと考えています。これからは、皆さんが自分の才能に気づくお手伝いもしていきたいです。
手仕事の“オトモ”
猫を撫でています。我が家には4匹の猫がいて、猫たちと一緒に過ごす時間が、私のリラックスタイムです。羊毛を撫でているのか、猫を撫でているのかのどちらかですね。(笑)
(◇取材・文:辺見 美咲 ◇イラスト・デザイン・編集:駒込〈スピパジャーナル編集部〉)
〈佐々木伸子先生 プロフィール〉
日本羊毛フェルト協会代表理事。スポーツインストラクターとしての活動を経て、2001年に羊毛フェルトの作品制作を始め、作家活動を開始。2011年4月に一般社団法人 日本羊毛フェルト協会を設立し、福岡と東京で実践講座や羊毛フェルト作家養成コースを開講。現在は、作品制作のかたわら羊毛フェルトのプロフェッショナル育成に力を注いでいる。
ひつじの学校
・HP
https://school.woolfelt.jp/
・インスタグラム
@hitsuji_no_gakko
一般社団法人 日本羊毛フェルト協会
https://www.woolfelt.jp/